総勢19名の相続人による相続登記・相続手続き

最終更新日:2025.09.10
【動画解説】総勢19名の相続人による相続登記・相続手続き
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お兄様の相続手続きの相談
札幌市南区のH様(80代・男性)より、「どうにも先が見えなくて…」と、お兄様の相続手続きについてご相談をいただきました。当初はどこに相談すればよいのかわからず、地域包括支援センターで事情をお話しになったところ、当事務所をご紹介いただき、このたびご来所くださいました。
7人きょうだいの末っ子
H様は道北のX町のご出身です。7人きょうだい(男性5人・女性2人)の末っ子で五男にあたります。
その一つ上のお兄様(四男)が、1か月ほど前にX町で亡くなられました。お兄様にはお子さんがいなく、他のきょうだいはすでに全員他界しています。相続人はH様のほか、甥や姪に広がっていきます。
「きょうだいはもう誰もいないので、兄の相続手続きは私が中心になって進めるしかありません」
「私以外は、甥や姪が相続人になるのはわかるんです」「中には自分より年上の甥や姪もいます」「おおよその顔ぶれは想像つくのですが、はっきりはしなくて…」
X町で行った葬儀には何人かの甥姪が参列してくれたものの、相続人全員を把握するのは容易ではないようです。お兄様の遺産は、X町の戸建住宅(土地と建物)と銀行口座3つです。
「家は古いので、売るか解体するしかないと思います。預貯金は特に欲しいわけではないのですが、不動産についてはその後の処理を考えると私の単独名義にしておきたいんです」
ごきょうだいの中で唯一ご存命なのはH様お一人であるため、そのお言葉からは「兄の相続手続きだけは何としてもやり遂げたい」という強い責任感が伝わってきました。
相続人の確定
H様のご意向を受け、『相続手続き「まるごと」サポート』で、当事務所がお兄様の相続手続きを一括代行することになりました。
まずは相続人を確定するため、戸籍謄本の収集から着手しました。お兄様やH様のお父様・お母様の出生時の戸籍までさかのぼる必要があり、さらにお父様が再婚されていた事情もあったため、収集する戸籍は多岐にわたりました。最終的には戸籍や附票を合わせて92通にのぼり、約2か月をかけて道内外にお住まいの相続人を特定することができました。
結果、相続人は総勢19名いることが判明しました。X町やその近郊、札幌や札幌近郊に住む方が多いものの、東京など本州在住の方も数名いらっしゃいました。
相続関係説明図や相続人リストを作成し、H様と改めて面談しました。
「連絡先が分からない人もいますが、間を介せばおそらく何とかなりそうです」とH様はおっしゃり、相続手続き完了への道筋に少し光が差したように思われました。
“根回し”の重要性
相続人が多数いる場合、見知らぬ司法書士からいきなり書類が届くと、警戒される可能性が大いにあります。そのため、当事務所ではまず“根回し”することを重視しています。
H様には可能な範囲で相続人へ「司法書士から書類が届く」と事前に声をかけていただきました。その上でまずは相続関係説明図・相続人リスト・法定相続分についての説明文などとともに、「相続手続に関する回答書」というアンケート形式の書類を郵送しました。内容は、遺産分割協議案のご説明です。
- 不動産については、H様が相続する
- 預貯金については、相続人全員で法定相続分通り分配する
H様の「預貯金はいらない」というご意向を尊重しつつ、相続人の方々には法定相続分での受け取りを提案することで、協力を得やすい環境を整えました。
遺産分割協議書への押印
相続人全員から「遺産分割協議書案のとおり協力できる」との回答をいただけたことを受け、次に遺産分割協議書を作成し、相続人全員に郵送しました。あわせて、実印での押印と印鑑登録証明書の返送をお願いしました。
ご高齢で印鑑登録をされていなかった相続人の方のために、わざわざ札幌からX町まで出向いて印鑑登録を済ませてくださったご家族がいたり、「自分の相続分はおじさん(H様)に譲りますよ」と言ってくださる方がいたりと、多数の相続人がいらっしゃるにもかかわらず、相続人の皆様の間には一体感のようなものが感じられました。
甥や姪の方々のお気持ちとしては、唯一のごきょうだいであるH様に財産を受け取ってもらいたい、また唯一ご存命のおじさんであるH様のために協力したいという思いであることがうかがえました。
相続登記と法定相続情報の作成
最終的に、相続人全員から遺産分割協議書と印鑑登録証明書の返送があったため、具体的な相続手続きを進めることが可能となりました。そこで、まずは法務局にて相続登記を行うとともに、法定相続情報を作成しました。
なお、法定相続情報については、一般的によく用いられる家系図形式ではなく、相続人が19名にも及ぶため、A4用紙数枚に収めやすい列挙形式(リスト形式)で作成しました。
預貯金の解約
相続登記完了後、3口座の預貯金を順次解約しました。この際、法務局で作成した列挙形式の法定相続情報を活用したことで、92通にも及ぶ大量の戸籍謄本を金融機関に提出する必要がなく、手続きは大幅に簡略化されました。その結果、預貯金の解約は非常にスムーズに進み、解約金は当事務所の遺産預り口座へと集約しました。
実務的には、法定相続情報の活用は金融機関からも大いに歓迎されるものであり、むしろ専門家であれば当然利用すべきものといった、半ば義務のような雰囲気すらあります。
一般の方であればまだしも、専門家が92通もの戸籍謄本をそのまま窓口に持ち込んだとしたら……おそらく担当者から冷たい視線を浴びることになるでしょう(笑)。
分配金の計算
解約した預貯金は、遺産分割協議書に記載されているとおり、相続人全員に法定相続分で分配する必要があります。相続分の割合は、5分の1、60分の1、40分の1、15分の1、10分の1……といった具合で、面倒な計算を何度も繰り返し確認することになりました(異母きょうだい、いわゆる“半血兄弟姉妹”がいらっしゃったことで、計算は複雑さを増しました)。
まるで小学校の算数ドリルを思い出すかのようで、途中で「本当に合っているのだろうか?」と何度も自信を失いながらも電卓と格闘した結果、最終的には正確な分配金額を算出することができました。
解約金の分配
解約金を分配するにあたり、相続人19名分の振込依頼書をあらかじめ記入し、遺産預り口座のある金融機関の窓口へ提出しました。依頼書の束は、まるで小冊子のようで、窓口の職員の方も思わず「これは…なかなかの数ですね」と苦笑いされていました。
一枚一枚確認しながらの作業となりましたが、職員の方のご協力もあって、法定相続分に基づき、19名それぞれの指定口座へ無事に振り込みを完了することができました。ようやく作業を終えた時の安堵感は格別でした。
相続手続きの完了
その後、相続人全員に完了書類を郵送し、これをもってすべての相続手続きが無事完了となりました。
なかでも、H様へお返しする書類は、92通もの戸籍謄本をはじめ、さまざまな書類の原本を含む膨大な量になりました。さすがに事務所で手渡しできる量ではなかったため、段ボールにまとめて郵送でお届けいたしました。
親族の温かなご協力
完了書類が届いたあと、H様から改めてお電話をいただきました。
「自分ひとりでは到底できませんでした。甥や姪も皆協力してくれて、本当にありがたいです」
「これからは不動産の処分をしなくてはなりませんが、X町にいる親族の協力を得ながら進めていきます」
総勢19名もの相続人による相続登記・相続手続きは、まさに大仕事でした。途中には戸籍集めや連絡調整など、数え切れないほどの段取りがありましたが、最後まで進めることができたのは、H様の誠実なお人柄、そして「H様のために力になりたい」という相続人お一人おひとりの温かなご協力のおかげでした。
無事にすべてを終えたとき、単に相続手続きが完了したというだけでなく、ご家族の絆や支え合いを深く実感できる案件となりました。
相続登記・相続手続きの無料相談
当事務所では、相続登記や相続手続、相続対策、各種登記についての無料相談を随時実施しています。
そもそも相続人が誰だかわからない、相続人と音信不通・疎遠、相続人が行方不明、相続人が海外にいる 等の場合にも、ぜひご相談ください。それぞれにつき解決実績があります。
H様のように相続人が多い場合や、相続手続きが複雑で不安に思われる場合でも、どうぞ安心して当事務所へご相談ください。段階を踏みながら、ひとつひとつ丁寧にサポートさせていただきます。
また、当事務所ではお忙しい方や外出が難しい方のために札幌市全域・札幌近郊への無料出張相談も行っています。無料出張相談の理由 >
ぜひお気軽にお問い合わせください。
皆様からの相談を心よりお待ちしております。お問い合わせ >

【用語解説】
● 地域包括支援センター
高齢者の生活を支援するため、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員などが連携して総合的な相談・支援を行う公的な窓口。
● 相続手続き「まるごと」サポート
札幌アメジスト司法書士事務所が提供する、相続に関する手続きを一括して代行するサービス。
● 戸籍謄本
個人の身分関係(出生、婚姻、死亡、親子関係など)が記録されている公的な証明書。相続人の特定に必要不可欠な書類。
● 戸籍の附票
戸籍とともに作成され、その戸籍に記載されている者の住所の履歴(転居、転入出など)を記録した書類。
● 相続関係説明図
被相続人と相続人全員の関係を図式化した書類。戸籍謄本の内容を分かりやすくまとめたもの。
● 相続人リスト
相続人全員の氏名、住所、連絡先などを一覧にしたもの。
● 法定相続分
民法によって定められている、各相続人が受け取ることのできる遺産の割合。
● 半血兄弟姉妹(はんけつきょうだいしまい)
父親または母親のどちらか一方のみを共通の親とする兄弟姉妹のこと。全血兄弟姉妹(父母の両方を共通の親とする兄弟姉妹)とは法定相続分が異なり、半血兄弟姉妹の法定相続分は、「全血兄弟姉妹の2分の1」と民法で定められています。そのため、兄弟姉妹が相続人になる場合に、全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹が混在すると、具体的な相続分の計算がやや複雑になります。
● 遺産分割協議
相続人全員が参加し、遺産をどのように分割するかについて話し合い、合意すること。
● 遺産分割協議書
遺産分割協議で合意した内容を文書にしたもの。相続手続きで使用するには、相続人全員の実印での押印と印鑑登録証明書の添付が必要。
● 印鑑登録証明書
市区町村に登録された実印が確かに本人のものであることを公的に証明する書類。
● 相続登記
不動産の所有者が亡くなった際に、その不動産の名義を相続人に変更する法務局での手続き。
● 法定相続情報
法務局が発行する、被相続人と相続人の関係を公的に証明する書面。戸籍謄本の束の代わりに、金融機関や法務局での手続きに利用できる。
● 列挙形式の法定相続情報
法定相続情報の作成形式の一つで、A4用紙数枚にわたって相続人をリスト形式で記載する方法。相続人が多数で家系図の形式にまとめることが困難な場合に利用されることが多い。
● 銀行口座の凍結解除
金融機関が名義人の死亡を把握すると、銀行口座は相続手続きが終わるまで凍結され、入出金や解約ができなくなります。解除には、相続人全員の同意書類や戸籍謄本等を提出し、金融機関で所定の相続手続きを行う必要があります。
● 遺産預り口座
司法書士事務所などが、依頼された相続手続きにおいて、被相続人の預貯金解約金などを一時的に保管・管理するために開設する口座。
● 司法書士
不動産登記、商業登記、供託、成年後見、簡易裁判所訴訟代理などを行う法律専門職。
【よくある質問】
Q.遺産分割協議とは何ですか?
A.遺産分割協議とは、故人の残した遺産(不動産、預貯金など)を複数の相続人の間でどのように分割するかについて話し合い、その合意内容を取り決める手続き、およびその合意を記録した文書のことです。特に、遺言書がない場合や、遺言書があっても遺産の分割方法が具体的に指定されていない場合などに必要となります。
Q.相続人が多数いる場合、遺産分割協議はどのように進めるのですか?
A.相続人が多数いる場合でも、遺産分割協議の基本的な流れは通常の場合と同様ですが、相続人の数が増えるほど調整が難しくなり、より複雑になります。
まず、故人の出生から死亡までの戸籍謄本などを収集し、相続人全員を正確に特定することから始めます。
次に、特定された相続人全員に対し、相続関係説明図や法定相続分に関する説明とともに、具体的な遺産分割協議案を提示します。この際、事前に中心となる相続人から他の相続人へ「専門家から相続手続きに関する書類が届く」旨を伝えてもらうなどの「根回し」を行うことで、協力を得やすくすることが重要だと考えます。
全員の合意が得られたら、その内容を明記した「遺産分割協議書」を作成し、実印での押印と印鑑登録証明書の返送を依頼します。
Q.相続人の確定のために戸籍謄本を収集するのは、なぜ必要なのですか?また、どのくらい大変な作業ですか?
A.相続人を正確に確定するためには、故人(被相続人)の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本などを遡って収集し、遺産を分けるべきすべての相続人を漏れなく把握することが相続手続きでは求められます。
この作業は、故人やその親族の出生地・本籍地が転々としている場合、非常に複雑で時間と手間がかかります。事例では、故人である兄の相続手続きで、92通もの戸籍謄本や戸籍の附票を約2か月かけて収集し、最終的に19名の相続人を特定しました。
Q.遺産分割協議における「根回し」とは具体的にどのようなことを指しますか?
A.「根回し」とは、相続人が多数いる場合や、日頃疎遠な相続人が含まれる場合において、司法書士などの専門家からいきなり書類が届くことによる相続人の警戒心を和らげ、手続きへの協力をスムーズに得るための事前の働きかけを指します。具体的には、中心となる相続人(事例では、故人の弟)から他の相続人へ、「相続手続きのため、専門家から書類が届くので協力をお願いします」といった連絡を事前にしてもらうことで、円滑な協議の環境を整えます。
Q.法定相続情報とは何ですか?どのようなメリットがありますか?
A.法定相続情報とは、法務局が発行する、故人(被相続人)と法定相続人の関係を公的に証明する書類(情報)のことです。これを作成し活用することで、金融機関での預貯金解約手続き等の際に、92通にも及ぶような大量の戸籍謄本を金融機関等に繰り返し提出する必要がなくなり、手続きを大幅に簡略化し、スムーズに進めることができます。事例では、相続人が19名と多いため、A4用紙数枚に収まる「列挙形式(リスト形式)」で作成されました。
Q.預貯金の分配計算は複雑になることがありますか?
A.はい、預貯金の分配計算は複雑になることがあります。特に、相続人が多数おり、しかもそれぞれの相続分の割合が異なる場合(事例では「5分の1、60分の1、40分の1、15分の1、10分の1」など異なる相続分だった)や、故人に異母兄弟姉妹(いわゆる「半血兄弟姉妹」)がいる場合は、計算がさらに複雑になります。正確な分配金額を算出するためには、専門的な知識と慎重な確認作業が求められます。
Q.相続手続きを司法書士に依頼するメリットは何ですか?
A.司法書士に依頼することで、相続手続きにおける様々な負担を軽減し、スムーズに進めることができます。主なメリットは以下の通りです。
- 一連の複雑な手続きの一括代行: 相続人の確定、戸籍収集、遺産分割協議(案)の作成、遺産分割協議書の作成、相続登記、預貯金の解約・分配など、札幌アメジスト司法書士事務所では『相続手続き「まるごと」サポート』として一括で代行しています。
- 時間と手間の大幅な削減: 特に相続人が多い、戸籍収集が困難、遠方に住む相続人がいるといった場合に、相続人自身の時間と労力を大幅に節約できます。
- 正確性の確保: 法定相続分の複雑な計算や、必要書類の準備、法務局や金融機関とのやり取りなど、専門知識が求められる部分を正確に処理してもらえます。
- 困難なケースへの対応: 相続人が音信不通、行方不明、海外居住者であるといった、通常では対応が難しいケースでも、専門家は解決実績やノウハウを持っています。
Q.札幌アメジスト司法書士事務所はどのような相続相談に対応していますか?
A.札幌アメジスト司法書士事務所では、相続登記や相続手続全般、相続対策、各種登記に関する無料相談を随時実施しています。特に、「そもそも相続人が誰だかわからない」「相続人と音信不通・疎遠」「相続人が行方不明」「相続人が海外にいる」といった、複雑で困難な相続案件にも数多くの解決実績があります。相続人が多い場合や手続きが複雑で不安な場合でも、段階を踏んで丁寧にサポートいたします。
Q.相談する際に費用はかかりますか?また、出張相談は可能ですか?
A.札幌アメジスト司法書士事務所では、相続登記や相続手続きに関する無料相談を随時実施しています。また、お忙しい方や外出が難しい方のために、札幌市全域および札幌近郊への無料出張相談も行っています。夜間や土日・祝日の相談にも対応しており、電話やメールで予約が可能です。
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