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出張での公正証書遺言の作成~おば様の想いを形に

最終更新日:2025.08.19

おば様の遺言書作成のご相談 

 当事務所ホームページの問い合わせフォームより、札幌市中央区のE様(30代 女性)から「おばの遺言書の作成をお願いしたい」というご相談をいただきました。
 E様のおば様は90代前半で、現在は札幌市北区の有料老人ホームに入居されているそうです。耳が遠いものの意思はしっかりされており、E様が代理でご連絡をくださいました。

E様宅に訪問

 お話を伺うため、まずはE様のご自宅へ訪問しました。詳しい状況は以下の通りです。

  • おば様は20年ほど前にご主人を亡くされ、子どもはいません。
  • ごきょうだいは、おば様ご自身を含め5人(兄2人・おば様・妹2人)です。兄2人はすでに他界され、妹2人はご健在です。
  • おば様の相続人になるのは、現状、長兄の子1人、次兄の子3人、ご健在の妹2人の合計6人(E様は現状相続人にはなりません)。
  • 長兄・次兄の家族は道外在住のため交流は少なく、妹2人の家族は札幌に在住しています。
  • おば様の世話は、長年、妹2人の家族がしている。
  • おば様は特にE様を実の子のように可愛がり、E様もおば様を慕っており1〜2週間に一度は老人ホームを訪ねています。

 おば様のご希望は「これまで近くで支えてくれた妹二人の家族に財産を残したい」というものです。財産は預貯金口座2つ。これをどのように遺すかが今回のご相談のテーマです。

遺言書を作るメリット 

 司法書士の西野からは、遺言書を作ることは相続対策として非常に有効であると、次のようにご説明しました。

  • 遺言が無い場合 ⇒ 交流の少ない長兄・次兄の子も含めた遺産分割協議が必要になるため、意思疎通が難しくなる可能性があり、相続手続き自体もが煩雑になる。
  • 遺言が有る場合 ⇒ 希望する人に財産を確実に遺すことができ、相続人間の遺産分割協議も不要となるため、相続手続きをスムーズに進めることができる。

遺言形式の提案

 遺言書の形式については、自筆証書遺言よりも公正証書遺言をおすすめしました。
 自筆証書遺言は手軽に作成できるようにも思えますが、正確に自書しなければならないため、ご高齢の方にとっては書き間違いなく完成させるのは容易ではありません。
 一方、公正証書遺言であれば、公証人が内容を確認しながら作成しますので、内容を手書きする必要はなく、口頭で意思を伝えるだけで作成できるため、ご高齢の方にも安心です。
 加えて、必要に応じて公証人が公証役場外に出張してくれるため、外出が難しいご高齢の方でも問題なく作成することができます。
 まさに今回のおば様のケースには、公正証書遺言が最も適した方法であるとご提案しました。

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遺言内容の提案

● 提案①
 おば様(90代前半)と妹二人(80代後半)はいずれもご高齢であるため、おば様の死亡時にすでに妹様が亡くなっている可能性もあります。何ら措置をしなければ、せっかく作った遺言が無効になる可能性もあります。

 そのため、予備的遺言を設定しておくことを提案しました。
 予備的遺言とは、第一の受遺者が亡くなっていた場合に備えて「そのときは代わりにこの人へ遺す」と次の受け取り先をあらかじめ定めておく方法です。こうしておけば、遺言が効力を失うことを防ぎ、確実に希望を実現することができます。
 今回の事例でいえば、「妹に相続させる」と定めただけでは、おば様が亡くなられた時点で妹様もすでに他界していた場合、遺言が効力を持たない可能性があります。そこで「妹が亡くなっていた場合は、その子ども(おば様からみて甥姪)に相続させる」としておくことで、確実に財産を託すことができます。

提案②
 あるいは、おば様のご希望が「妹二人の家族に財産を残したい」という点にあることから、予備的遺言を設けるのではなく、そもそも最初から妹二人の子ども(E様を含む甥姪4人)に直接相続させる(遺贈する)形の遺言にすることも、選択肢の一つとしてご提案しました。

 E様には、今日のお話をおば様や妹二人のご家族にお伝えいただき、話し合いのうえで改めてご連絡をいただくことになりました。

遺言内容の最終決定

 約2週間後、E様から以下の内容でお願いしたいと、再度ご連絡をいただきました。

  • 財産は妹二人の子ども(おば様からみて甥姪の4人)に直接渡す内容にしたい
  • 公正証書遺言で作成したい
  • 有料老人ホームまで公証人の出張をお願いしたい

 おば様ご本人も、妹二人のご家族も納得しているとのことでした。
 私からは「この遺言の内容について、本人確認・意思確認のため、直接おば様にお会いする必要がある」と説明し、公正証書遺言を作成する前段階として、司法書士の西野が有料老人ホームに訪問する日程の調整をお願いしました。

有料老人ホームでおば様と面談 

 有料老人ホーム1階の応接室でお会いしたおば様は車椅子に座っておられました。歩けなくなったのは2〜3年前とのことです。耳は遠いものの、会話は明瞭で、ちゃきちゃきした印象を受けました。90代とは思えないほどお元気で、はっきりとした受け答えに安心しました。

 「思ったより若いねぇ」とおば様。
 私もすでに中年と呼ばれる年齢なので、自分を若いと思うことはもうありませんが、90代のおば様から見れば私もまだまだ若造なんだろうなぁと、思わず苦笑いしてしまいました。
 さらに「ちゃんとやってくれなきゃ困るよ」と釘も刺されました(笑)。
 ユーモアを交えつつも、今回の遺言についてしっかりとご自身のお気持ちを伝えてくださいました。

 また、おば様の気持ちを付言事項として「近くで支えてくれた妹二人の家族に財産を残したい」「財産は家族のために使ってほしい」「今後も家族仲良くしてほしい」と明記することになりました。
 付言事項とは、遺言の中で法的な効力はないものの、遺言者の想いや経緯を相続人に伝えるための文章です。これを加えることで、相続人が「なぜこのような遺言になったのか」を理解しやすくなり、将来の争いを防ぐ効果も期待できます。

 そして、おば様とE様の希望もあり、司法書士である私・西野を遺言執行者に指定いただくこととなりました。

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公正証書遺言作成の準備 

 この日、おば様の意思をしっかりと確認することができました。遺言の内容についても最終確認ができ、何よりもおば様ご自身のはっきりとしたお気持ちを受け止めることができたため、翌日から公証役場との連絡を進め、具体的な準備に入ることになりました。
 公証役場とは、遺言の内容を確認するとともに、公証人が有料老人ホームへ出張する日程の調整などを行いました。
 また、おば様のご希望をもとに作成した遺言の原案は、その都度E様を通じておば様にも確認いただき、内容に誤解や齟齬が生じないよう丁寧に進めていきました。

出張での公正証書遺言作成当日

 約1か月半の準備を経て、いよいよ公正証書遺言作成日を迎えました。
 当日は、証人となる司法書士の西野と当事務所のスタッフの2人は、車で有料老人ホームへ向かいました。公証人とその事務員2人は、地下鉄とタクシーを乗り継いで有料老人ホームへ到着しました。
 全員が揃い、有料老人ホーム1階の応接室に集まりました。同席したのは以下の5人です。

  • 遺言者であるおば様
  • 公証人とその事務員
  • 証人として司法書士の西野と当事務所のスタッフ

 利害関係人にあたるE様は同席できないため、室外でお待ちいただくことになりました。

公正証書遺言の完成

 公証人によるおば様の本人確認・遺言内容の確認が進み、おば様はその都度はっきりと「はい」「間違いないです」と答えられました。時折ユーモアを交えながら受け答えをされるおば様の人柄もあり、場の空気は終始和やかで、公証人や証人である私たちも思わず笑顔になるほどでした。
 遺言内容の確認を終え、最後に遺言者と証人がそれぞれ署名し、所要時間20分ほどで無事に公正証書遺言が完成しました。

 手続きが終わると、公証人とその事務員は有料老人ホームを後にされました。私たちも応接室を出て、外で待っていたE様に「無事に終わりました」とお伝えすると、E様は大きく息をついたようにほっとした表情を浮かべ、「本当にありがとうございました」と心のこもった言葉をかけてくださいました。その姿から、これまでの不安がようやく和らいだことが伝わってきました。
 おば様も、介護職員に車いすを押されながら「よろしくね」と軽く手を挙げ部屋に戻っていかれました。その後、E様から改めて感謝のお言葉をいただき、私と事務所スタッフは温かい気持ちに包まれながら、有料老人ホームを後にしました。

遺言の現実的な効用

 今回の事例では、以下の点が大きなポイントだったように思います。

  • おば様が「近くで支えてくれた妹二人の家族に財産を残したい」と強く希望されていたこと
  • もし遺言がなければ、普段ほとんど交流のない相続人とも遺産分割協議を行う必要があり、話し合いが難航したり大きな負担になった可能性があったこと
  • 公正証書遺言を作成することで、おば様の希望を確実に実現できるようにしたこと 

 このように、遺言は「想いを形にする」という抽象的な意味合いにとどまらず、現実的に無用な協議やトラブルを回避し、相続手続きをスムーズに進めるための有効な手段です。
 誰に財産を遺したいかを明確にしておくことで、ご本人の希望を確実に実現できるだけでなく、残されたご家族の負担を大幅に軽減することにもつながります。

相続対策の無料相談

 当事務所では、相続対策(遺言書作成、生前贈与、成年後見など)の無料相談を随時実施しています。
 また、
E様のようにお忙しい方や、おば様のように外出が難しい方のために、札幌市内全域・札幌市近郊への無料出張相談も行っています。ご自宅や介護施設など、どこへでも伺います。無料出張相談の理由 >
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